作成: スペイン王立ガストロノミー学会
Real Academia de Gastronomía
Can Roca Restaurantスペイン王立ガストロノミー学会
レストラン経営者一家
アル サリェー ダ カン ロカは、郊外の労働者階級地区にあります。隣にはジョアン、ジョセップ、ジョルディの両親であるモンセ フォンタネとジョセップ ロカが 1967 年に創業したバー兼ビストロ「カン ロカ」があります。
料理人の血は、ロカ兄弟の父母両方の家系に流れています。母親のモンセの家系は代々レストラン経営者でした。
父親のジョセップは、ジローナ県北部のサント マルティー ダ リェマナで母親が経営していたビストロ「イアイア アンヘリータ」(アンヘリータおばあちゃん)で生まれました。
Montserrat Fontané and her sonsスペイン王立ガストロノミー学会
ロカ兄弟の母、モンセ フォンタネ
モンセは 13 歳のときに家族が経営するカン バティスタで働き始めましたが、まもなくバルセロナに移って姉のレストランで料理を学びました。そこで皆の人気者のジョセップと恋に落ち、すぐに結婚したのです。
当時の彼らは、自分たちの子供がレストラン経営を受け継ぐだけでなく、世界的に認められるようになるとは想像もしていませんでした。
Montserrat and Josep with their son Jordiスペイン王立ガストロノミー学会
ロカ兄弟の父、ジョセップ ロカ
カン ロカのための物件を見つけたジョセップは、バー兼ロティサリー チキン店を始めるためにすぐにバス運転手の仕事を辞めました。
工芸が得意なジョセップは、息子たちが料理を出すテーブルのデザインをしばしば手伝っています。
Squidsスペイン王立ガストロノミー学会
客と家族
モンセは 1967 年からカン ロカの厨房の中心にいました。80 歳となった現在も、料理に関するジョアンのアドバイスや、メニュー値上げの提案も拒否して自分のやり方を貫いています。「息子たちが有名になったからといって、私の常連さんに迷惑かけたくないのよ」というのがモンセの口癖です。
モンセ フォンタネは、若い頃に習った「エスクデージャ」(カタルーニャのスープやシチュー)、「フィデウア」(魚介と麺の料理)、カタルーニャ風カネロニ、レストランの代表料理となっているイカのカリカリ衣揚げなど、近所に住む同年代の女性と同じ伝統的なカタルーニャ料理を作る方法を説明してくれます。
ジョアンも「こういったルーツが私たちの料理の基本となっています」と語っています。
Jordi playing infront of Can Rocaスペイン王立ガストロノミー学会
ロカ 3 兄弟はビストロを手伝い、接客しながら育ちました。ジョアンが 14 歳になるまでは、レストランは年中無休で営業していたそうです。
「お客様は近所の人だったので、ほとんど友人や家族のようでした。両親が楽しそうに働いて、お店に来る人々も幸せそうにしていたことを覚えています。それは今も変わらず、地元のバーとして、一生懸命働く人々に美味しくて良心的なメニューを提供しています。」
The Roca brothers at the old recepcionスペイン王立ガストロノミー学会
3 人の中で 1 番のしっかり者だったジョアンはよくホールを手伝っていましたが、両親曰く、ジョセップはできるだけ早く終わらせてサッカーをすることしか頭になかったようです。
「ジョセップはひどいものでした。ローラースケートを履いたままで接客し、お客様にアイスクリームはホットとアイスのどちらにするかと聞いていたのです。ホットと言われたら、あの子はアイスクリームを電子レンジに入れたでしょうね」と、モンセは語っています。
兄弟たちと 10 年間一緒に働いていたジョルディについては、モンセは「もう 1 人のわんぱく小僧」だったと言います。
Hospitality School of Geronaスペイン王立ガストロノミー学会
ジローナのホスピタリティ マネジメント観光専門学校
ジローナのホスピタリティ マネジメント観光専門学校(ル エスコラ ドゥ オスタレリア イ トゥリズメ ディ ジローナ)は 1965 年に設立され、ロカ 3 兄弟もここで学びました。ジョアンは 1983 年に卒業するとすぐにこの学校の教員となり、弟のジョルディにも教えることになりましたが、彼に対しては特に厳しかったことを 2 人とも認めています。ジョセップは 1985 年、ジョルディは 1997 年に同じ学校を卒業しました。
Joan and Jordi Rocaスペイン王立ガストロノミー学会
創業当時のアル サリェー
1986 年、フランス全土を旅したジョアン ロカとジョセップ ロカは、豪華なフレンチ レストラン式の高級料理店創立というアイデアと共にジローナに戻りました。そして、一家のレストランと住居の隣にある建物に、アル サリェー ダ カン ロカを開店したのです。
「最初はお客様が入らず、うまくいきませんでした。今もあるテーブル サッカーゲームで一晩中遊んでいたことも何度かありました」と、モンセは話します。しかしほどなく厨房が手狭になり、カン ロカの厨房まで使うようになりました。「店を改装して大きくしましたが、その後もさらにスペースが必要になったのです。目まぐるしい変化でした。」
改装の間、レストランは一時的にカン ロカが料理を提供するバンケット ホールとして購入したトーレ デ カン スニェールに移動しました。
Hake with garlic and rosemary vinaigretteスペイン王立ガストロノミー学会
アル サリェー初期の料理
アル サリェーでの最初の一皿は、ジョアンがバスク料理からアイデアを得て作ったニンニクとローズマリーのビネグレット ソースを添えたメルルーサでした。
2 年後には、現在もレストランで提供されている黒シャントレル茸入りのロブスター パルマンティエを作りました。「私のお気に入りの 1 つです。彼らは今でもこの料理にアレンジを加えています」と、息子たちの創作レシピを例にあげてモンセは語りますが、これらのレシピは主に子供の頃に食べた料理がもとになっています。
El Celler de Can Rocaスペイン王立ガストロノミー学会
新しい場所
2007 年、兄弟はインテリア デザイナーのサンドラ タルエラとイザベル ロペスにトーレ デ カン スニェールの建物の改装を依頼しました。目指したのは自然光、有機材料、木材を重視し、お客様に親しみやすい雰囲気を提供するホールでした。
厨房は兄弟で設計を担当し、以前の 4 倍の広さにしました。
ジョセップはワインセラーをきっちり 5 つのエリアに分けることを希望しました。まるで礼拝所か祭壇のようなそれぞれのエリアは、彼のお気に入りのブルゴーニュ、リースリング、シャンパン、プリオラート、シェリーという 5 種類のワインの専用エリアになりました。
The Roca brothers celebrating the 3er Michelin starスペイン王立ガストロノミー学会
受賞
アル サリェー ダ カン ロカは 1995 年に初めてミシュランの星を獲得し、その後も 2002 年と 2009 年にも星を獲得しています。さらに、世界のレストラン ベスト 50 で 2 度も 1 位に選ばれています。
ロカ兄弟は料理界で有名なだけでなく、近隣住民からも愛され応援されています。受賞がわかると住民は即席パーティーを開いて兄弟を祝福し、ジローナを世界で有名にしてくれたことを彼らに感謝しました。
カン ロカの味を引き継いだアル サリェーのメニュー
ロカ家の価値観は、厨房でも日常生活でも常に 3 兄弟とともにありました。「私たちがしていることの多くは、自分たちの価値観、つまりレストランでの人生を伝えることです」とジョアン ロカは言います。
Memories of a barスペイン王立ガストロノミー学会
アル サリェー ダ カン ロカの現在のメニューはモンセの料理に敬意を表しており、両親のバーにいる 3 人の男の子の写真で囲むという独特のスタイルで提供される料理があります。14 歳のジョアンと 12 歳のジョセップ、まだ生まれていないジョルディは雲の中で自転車に乗る姿で登場しています。
「内容は母のパタタス ブラバス、「サルピコン デ マリスコ」(シーフード サラダ)、揚げイカ、腎臓のシェリー煮、カンパリ ボンボン、カネロニをアレンジしたものです」とジョアン ロカは説明しています。
Can Roca: employees eating in the sunスペイン王立ガストロノミー学会
心の安らぐ料理
アル サリェーのスタッフは毎日、レストランのオープン前にカン ロカで食事をします。カン ロカではモンセとスタッフが、水曜日は「アロス ア ラ カスエラ」(ライス キャセロール)、木曜日は「エストファド」(シチュー)など、40 年以上にわたって作り続けてきたものと同じ献立を 1 週間準備しています。
「変わらないというのは、気持ちが安らぐものです。常に違うことをする必要はないのです」とジョアンは言います。
モンセは、紹介でやってきた学生たちにも自分の子供と同じように接します。彼らも家族から遠く離れた異国の地で暮らしていることを知っているからです。
Joan Rocaスペイン王立ガストロノミー学会
ジョアン: 伝統から抜け出したシェフ
ジョアンが率いるアル サリェー ダ カン ロカの厨房には、思い出、学問としての伝統(ホスピタリティの勉強や昔ながらのレシピブックから学んだもの)、そしてもちろん生産性と創造性が混在しています。
何より大切なのは、レストランの 3 本柱が調和すること。つまり 3 兄弟それぞれが得意なことをもって協力し合うことです。
使用した材料の香りがジョセップの好きなワインや、カバをベースにしたソースにも感じられるように、料理とスイーツのどちらにも調和が表れています。
Onion flower with comte cheese, walnuts, walnut bread and curry-caramelised walnutsスペイン王立ガストロノミー学会
2000 年にスペインのナショナル ガストロノミー賞を贈られたジョアン ロカは、「真空調理」の先駆者であり提唱者でもあります。
フォンダ ジャネル レストランのナルシス ジャネルと共同で、制御された低温で真空調理するための器具 Roner を発明したのもジョアンです。この調理器は、現在では世界最高のシェフたちも使用しています。
アル サリェーの厨房でジョアンがその好奇心から研究して得たものの 1 つに、「香りを生み出す」調理技術があります。これは、1 つの食材を別の食材の香りで調理するというもので、甲殻類や魚の脂が多い部位の調理に適しています。後にジョルディも同じ技術をスイーツに取り入れました。
The Roca brothersスペイン王立ガストロノミー学会
ジョセップ: シェリーを愛するソムリエ
若い頃は料理よりもサッカーに興味があったジョセップ(親しみを込めてピトゥとも呼ばれます)ですが、ホスピタリティ マネジメントを学べという兄の言葉を結局は受け入れました。そこで自身のカクテル作りの才能を知るのです。世界への小さな一歩になったのは、子供の頃の体験でした。両親によく、レストランのボトルに樽ワインを補充するよう頼まれていたのです。
今や世界最高のソムリエの 1 人となり、2010 年のスペインのナショナル ガストロノミー賞をはじめ、数々の賞を贈られています。
El Celler de Can Rocaスペイン王立ガストロノミー学会
ジョセップ ロカはホールを担当しており、研修を受けるだけでなく、料理について知り尽くしたウェイターが接客を担当することでホールを改革できると強く主張しています。
Jordi Rocaスペイン王立ガストロノミー学会
ジョルディ: かぐわしい菓子の作り手
ジョルディは家業の中で自分の場所をなかなか見つけられず、厨房とホールの間を行ったり来たりしていました。しかしその後、アラン デュカスやジョエル ロブションらと働いていたダミアン アルソップと出会い、スイーツの世界に導かれることになりました。彼自身がかつて語ったように、その瞬間から家業の中に自分の舞台を見出したと感じるようになったのです。
Flower bombスペイン王立ガストロノミー学会
2000 年代の初め、ジョルディのスイーツは徐々に有名になり、ジョアンとそのチームが達したレベルにほぼ並びました。
アイスクリーム作りの研修も受けましたが、製造過程での空気純度の重要性を説くアイスクリーム作りの師の教えに逆らい、ジョセップの助けを借りて煙を容器の中に移す装置を作りました。
2000 年には、この装置で自身の代表的なデザートの 1 つ、シガー スモーク アイスクリーム(プロ エラド デ パルタガス)を作りました。
その後、ベルガモットのサンプルを送られたのをきっかけに、当時人気のあった香水の香りを抽出することに夢中になりました。香水をスイーツという言語にすることで、香りの名前を付けた一品にするというアイデアでした。
Chocolate anarchy(2014)スペイン王立ガストロノミー学会
最新の代表作は「アナーキア」(アナーキー)です。彼はこれを「あらゆるお客様の味覚に対する概念をくつがえす、注文への反抗」と定義しています。お客様は目の前に並ぶゼリー、ソース、クリーム、トリュフ、スポンジ、サクサクのトッピング、アイスクリームを選択できます。
ジョルディは、ロカンボレスク プロジェクト(アル サリェーのデザートをベースにしたアイスクリーム店をスペイン各地の都市に展開するプロジェクト)を通じて、自分のスイーツを広めました。
Roca brothers in the kitchenスペイン王立ガストロノミー学会
国をまたいで
ロカ兄弟の影響はスペインのみにとどまりません。2014 年には、訪問した国の地産食材を調理する世界ツアーを開始しましたが、翌年以降もこの旅を続けました。
2015 年には、ジョアン ロカがダボスの世界経済フォーラムで開催された食品と薬品に関する討論会に招待されました。
そして 2016 年、3 兄弟は国連開発計画の親善大使に任命されました。
Great chocolate bonbonスペイン王立ガストロノミー学会
アル サリェーの枠を超えて
アル サリェー ダ カン ロカは、バルセロナのホテル オムにあるレストラン「ロカ モー」を監修しており、味とテイスティング メニューのバランスが取れた非常にユニークな形でカタルーニャ料理を提供しています。
また家族の他のメンバーは、街の中心部にありジローナを象徴する建物で 2018 年末に「カーサ カカオ」をオープンするプロジェクトに着手しました。高品質のココアから作られたチョコレートを、お客様はホット ドリンクやアイス ドリンク、固形、ペストリーといった形で試食することができます。この建物には、ジョアン ロカの妻でアル サリェー ダ カン ロカの運営に深く携わっている観光の専門家アンナ パイエが経営するホテルも入る予定です。
テキスト: マリア ガルシア氏
画像: レストラン「アル サリェー ダ カン ロカ」 / www.girona.cat/turisme
謝辞: ラファエル アンソン氏(スペイン王立ガストロノミー学会代表)、エレーナ ロドリゲス氏(スペイン王立ガストロノミー学会ディレクター)、マリア ガルシア氏およびキャロリーヌ ヴェルイーユ氏(いずれもスペイン王立ガストロノミー学会貢献者)
スペイン王立ガストロノミー学会
この展示は、スペインの食文化について取り上げた Google Arts & Culture とスペイン王立ガストロノミー学会による共同プロジェクトの一部です。