ジャンル、読者層のマッピング

日本では誰もが知っている国民的大作だけではなく、趣味趣向に合わせた多様なマンガが生まれてきた。近年では、電子化やSNSの普及等で、さらにニッチな作品が読者に届くようになっている。

作成: 経済産業省

野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社)©野田サトル/集英社 撮影=ただ(ゆかい)

90年代に盛り上がりの最高潮を迎えたマンガは、日本の文化として今日に至るまで根付き、誰もが知っている国民的大作だけではなく、趣味趣向に合わせた多様な作品が生まれてきた。近年では、スマートフォンやタブレット端末の進化、Twitter等のSNSの普及、そして大手出版社を含めさまざまな事業者のマンガアプリへの進出で、ニッチな作品も読者に届くように。さらに、アプリの課金スタイルが標準化し、かつてマンガを読んでいた少年・少女に、過去の名作をもう一度読んでもらうという導線を貼れるようになった。

様々なコミックスが並ぶマンガ売場の様子(銀座 蔦屋書店)出典: -

年代・性別・趣味に応じたマンガメディア

戦後の日本のマンガは、マンガをメインコンテンツとする雑誌に連載され、その後コミックスとして販売される形態をベースに発展してきた。かつてのマンガ雑誌は少年向け・少女向けにつくられ、それぞれの読者が年齢を重ねるに従い、年齢層をあげたマンガ雑誌が生まれた。

趣味嗜好の多様化により、読者層の幅が広がり、男女・年齢層の想定読者を置かないマンガ雑誌が誕生。さらに近年のマンガアプリでは、カテゴリーごとのランキングやリコメンド機能により、自分の読みたい作品のついでに、自分好みの作品を読めるようになってきている。

マンガワン出典: -

進むジャンルの細分化

マンガアプリでは読者ごとにカスタマイズされたリコメンド機能によって、同ジャンルの類似作品に簡単に出会えるようになった。そのため、各ジャンルの「席」が増え、細分化されたジャンル内での多作化が進んだ。

いっぽう、かつてマンガ雑誌が主流だった時代のように、雑誌をぱらぱらとめくっていくうちに、自分の嗜好とは全然違うジャンルだが、なぜか気になってしまい読み始めるというような、ジャンルを超えた作品との出会いは、相対的に弱まっているといえる。

左から、『ハイキュー!!コンプリートガイドブック 排球本!』、新井隆広 (著) 青山剛昌(現案協力)『名探偵コナンゼロの日常』(小学館)出典: ©古舘春一/集英社

キャラ人気が開拓する新たな読者層

マンガやアニメを題材にした舞台が、「2.5次元ミュージカル」として近年定着している。これらの題材になるのは、主人公だけでなく、むしろ主人公よりも人気のキャラクターが点在する作品だ。また、作品ファンだけでなく、その世界にすむキャラクターのファンも多く、この図式はアイドルファンの動向にも近いともいえる。キャラクターを演じるアイドルや俳優のファンが、キャラクターを通じてマンガやアニメ、2.5次元ミュージカルを嗜むという点でも、読者層の開拓が広がっている。

『このマンガがすごい!』(宝島社)出典: 撮影=ただ(ゆかい)

マンガ賞がもたらす功罪

作品タイトルが増えるなかで、作品と出会うガイドとして、ランキングや読者目線のマンガ賞が多く生まれ定着してきた。集計や選考方法はさまざまだが、なかでも現場でコミックスを販売している書店員の関与が大きい「マンガ大賞」(2008年からスタート)などは、上位にランクインをすれば販売につながりやすく、強い影響力を持つ。 
コミック担当書店員が推したい作品は、新たな表現や切り口の「新しい」作品。その傾向は、ニッチな習作との相性もよく、それらをいちはやく掘り起こせるという利点がある。いっぽう、誰もが楽しめる作品は評価されにくく、王道作品が減ってきた面もある。 

カトウタカヒロ『ジンメン』出典: 小学館

ライトユーザーの心をつかむマンガとは?

あまりマンガを読んでこなかった若者や大人を新たな読者層として呼び込む役割は、これまでマンガ作品の実写ドラマ化が担ってきた。だが近年では、スマートフォンやタブレット端末の普及により、移動時間などにすぐ楽しめるコンテンツとしてマンガが再浮上してきている。読みやすさやページをめくる動機が求められているため、フィクションに親しんでいない読者層にはエッセイマンガ、読みやすくてほろっとするホームコメディ、ドキドキハラハラしてページをめくってしまうパニックホラーの人気が広がりつつある。

右から、鳥山明『DRAGON BALL』、とよたろう・鳥山明『ドラゴンボール超』、和月伸宏『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚』と『るるろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-』(すべて集英社)出典: ©️バードスタジオ/集英社 ©️バードスタジオ・とよたろう/集英社 ©和月伸宏/集英社

過去の名作に出会う、新世代の読者たち

かつてマンガを読んでいた読者をもう一度、マンガ読者に引き戻しているのは、名作と続編展開だ。その流れは旧来からあったが、マンガアプリの普及で、過去の名作をもう一度読むきっかけがつくりやすくなり、続編を読む読者数がより増加している。加えて、名作を読んでいた子どもが大人になり、その名作と続編を親子で楽しむという、家族のコミュニケーションにも役立っている。 

右から、『Dr.STONE』(稲垣理一郎=原作、Boichi=作画、集英社)、『はたらく細胞』(清水茜、講談社)出典: ©米スタジオ・Boichi/集英社 ©清水茜/講談社

支持されるのは、題材の「リアル」さ

情報が氾濫した現在では、効率的に情報を得て学びたいというニーズが高まっている。楽しみながら知らず知らずのうちに学び、知識を定着させるには、マンガが扱うイメージとストーリーの手法が最適だ。それにともない、清水茜『はたらく細胞』(講談社、2015)や稲垣理一郎/Boichi『Dr.STONE』(集英社、2017)のようなリアリティ重視や正確な知識も得られる作品がメインストリームに現れつつある。

野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社)出典: ©野田サトル/集英社

変わりゆく「王道」

趣味嗜好の細分化、価値観自体の多様化、効率的な知識取得願望により、「王道」の在り方が変化している。野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社、2014年)は大人向け作品として大ヒットし、大英博物館マンガ展でもキービジュアルを飾った。本作は、アイヌの民俗風習、戦争の歴史、サバイバル術が細かく描かれていて、楽しみながら知識も得られる。また、キャラクター造形の魅力やそれらが引き立つ描写により、各キャラクターへのファンも多い。多様化している読者層に対し、それぞれに響くポイントを散りばめ、あらゆる人に届く作品になっている。新たな「王道」スタイルの誕生だ。

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』(集英社)出典: ©吾峠呼世晴/集英社

「王道」も多様化する

1巻あたりのコミックス発行部数で、吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)『鬼滅の刃』(集英社、2016)が200万部を突破した。諌山創『進撃の巨人』(講談社、2009)以来となる、約10年ぶりの大ヒット作品だ。礼儀正しく清々しい主人公が鬼退治をするという、日本国民に馴染みのある王道の筋道である。同作はすぐに人気を獲得したわけではなく、アニメ化に伴ってじわじわとファンを増やし、クライマックスでもっとも盛り上がった。これは、誰もが潜在的に王道作品を求めていた証と言えるかもしれない。強い信念・価値観を持った重要なキャラクターが多く配置され、キャラクターファンへのニーズとも合致した。『ゴールデンカムイ』が新たな王道ならば、『鬼滅の刃』は王道の進化と言える。

提供: ストーリー

Text: Yasuhiro Yamauchi(MANGANIGHT
Edit: Taisuke Shimanuki, Narika Niihara, Natsuko Fukushima(BIJUTSU SHUPPAN-SHA CO., LTD.) 
Supervisor: Hirohito Miyamoto(Meiji University) 
Production: BIJUTSU SHUPPAN-SHA CO., LTD. 
Written in 2020

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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