食べて、感じて、考えるりんご

りんごに込めた、作り手からのメッセージ

作成: 農林水産省

色づくりんご(2020)農林水産省

見た目のきれいさより完熟の美味しさを

りんごというと、日本ではみかんと並んで昔から親しまれてきた果物ですが、もしかしたら多くの人が、完熟した採れたてのりんごの美味しさをまだ体験したことがないかもしれません。それは、スーパーマーケットなどで売られるりんごは、輸送して店頭に並ぶまでの時間を考慮し、完熟よりも前に収穫したものが並んでいることもあるためです。

りんご「ブラムリーズシードリング」の果実(2020)農林水産省

長野県北部に位置する飯綱町でりんごを生産している山下フルーツ農園で収穫したばかりのりんごを一切れいただくと、そのみずみずしく香り高いりんごの美味しさに驚きます。「りんごは、水分量が最も多いもぎたてが一番なんです!」そう話してくれたのは、山下フルーツ農園の代表、山下絵里さん。

山下フルーツ農園の代表、山下絵里さん(2020)農林水産省

山下フルーツ農園 山下家(2020)農林水産省

彼女は、システムエンジニアとして活躍した後、2012にこの農家に嫁ぎ、2013年に農家の代表となったという珍しい経歴の持ち主。1年間フランスに滞在して、WWOOFによる農業体験やオーガニック生活を味わったこともあるのだそう。嫁いで初めてりんご栽培に携わるようになった彼女ですが、「りんご作りは知れば知るほど面白い!」と楽しそうに話します。

りんご農園(2020)農林水産省

農園を案内してもらうと、広大な敷地に点々とりんごの樹が生え、美しい緑の葉の中に赤や黄緑の実がまるでオーナメントのよう。りんご栽培でよく見られる袋がけは、この農園では見られません。「うちでは、見た目よりも美味しさを大切にしているので、40年以上前から袋がけをせずに栽培しています。果実が赤くなったら完熟だと思われがちなのですが、りんごの場合はそうではないんです。お尻の部分が開いて、果肉の地色が透けて見えてきたら、それが完熟の合図です」同じ樹の果実でも成熟具合は異なるため、ひとつひとつ、人の目で確認して収穫するのだと言います。

りんごの収穫(2020)農林水産省

「土に反射板を置いてりんごのお尻まで赤くする技法もありますが、大事な完熟サインを見落としてしまう可能性があることや、土に太陽の光が当たらないことで微生物が育たなくなるため、私たちの農園では使っていません。見た目がいいものが売れるという消費構造から生まれた技術だと思いますが、果実は、お日様と土の力を借りて、私たちは手助けするくらいの方が美味しく育つと思うんです」

りんごの収穫(2020)農林水産省

子供たちも遊ばせられる安心安全な栽培

山下フルーツ農園のりんご畑には、シロツメクサやオオバコなど、自然に生える様々な草花でいっぱいです。それは、ここが除草剤を使っていないからだと山下さん。40年以上前から農薬を慣行栽培と比較して最大6割減にし、安心安全な栽培を心がけているのだそう。

「子供たちを連れて畑に行くこともしょっちゅうですが、彼らは当たり前のように土に触れ、時には口に入れたりもします。食べていただく方に安心安全なものを届けたい、という想いももちろんありますが、同時に、私たちの暮らしの場所も安全でなければならない、という意識もあります。農薬を使って困るのは、作っている私たち自身。除草剤を使ったところで子供たちを遊ばせたくない。そういう気持ちが先代にもあったから、それほど前からここでは除草剤を使用していないのだと思います」

りんご農園(2020)農林水産省

近年高齢化が進み、栽培をやめてしまうりんご農家も増えているそう。使われない農地が増えてしまうのは一見、残念なことのように感じますが、見方を変えれば可能性も広がる、と山下さん。

「有機栽培の難しさって、風などで周りの農地から農薬が飛んできてしまう『ドリフト』という現象にあります。農地が密集しているほど、このリスクは高くなりますが、空いている土地を借り入れて手入れをすることで、有機栽培がしやすい環境ができます。地域を守るためにも、私たちの今後の挑戦という意味でも、周りの土地をどう利用するかは、重要な課題かもしれません」

りんご「ブラムリーズシードリング」の収穫(2020)農林水産省

りんご栽培を残すために実験的な試みも

クッキングアップルの王様とも言われる「ブラムリーズシードリング」、中国から伝来した日本最古の倭りんご「高坂りんご」、皮は黄色く中が赤い「ムーンルージュ」。りんご畑を少し巡っただけで、絵里さんの解説には様々な品種名が登場します。聞けばここで育てているりんごは約40品種。8月半ばから11月末くらいまで、時期をずらしていろいろな種類のりんごがなるのだそう。

高坂(こうさか)りんご(2020)農林水産省

りんご「メイポール」(2020)農林水産省

「多くの種類を栽培しているのは、品種を保存する、という意味もありますが、種類によって個性が豊かで面白くて育てているものもあります。りんごは接木ができるので、旬になると半分が赤いりんご、もう半分が青いりんごがなる樹もありますよ。今では育てている人がほとんどいないような珍しい品種もあるので、ここは〝りんご博物館〟のようです」

「新わい化栽培」りんご畑(2020)農林水産省

「新しい方法で栽培しているところも見てみますか?」そう言って山下さんが案内してくれたのは、真っ直ぐに伸びる細い樹が一定間隔に整然と並んでいるりんご畑。

これは、長野県でも推奨している『新わい化栽培』という手法で、イタリアのチロル地方で盛んに行われている栽培方法なのだそう。枝も根っこも細く寒さに弱いので、丈夫さという意味ではデメリットはあるものの、この農法だと日の当たり方も均一なので、クオリティが揃いやすいというメリットがあります。また、作業効率が良いため、生産者が高齢化していく中ではこういう方法も有効だと山下さんは言います。

「新わい化栽培」りんご畑(2020)農林水産省

「昔ながらの方法だと、実を収穫できるのは樹を植えて5年から10年後。でも、この方法だと3年目から収穫できるのでスピード感があり、新しい品種を試すのにも向いています。全てこの方法に切り替えるのはリスクがありますが、両方のやり方をバランスよく取り入れて生産しています。実験的なことに挑戦するのも、栽培を続けていくためには必要なことだと思っています」

Café 傳之丞 外観(2020)農林水産省

りんごが〝きっかけ〟になることを願って

山下フルーツ農園が代々家族で取り組んできたでりんご作りの熱意や、当たり前のように行われてきた安心安全への取り組みは、嫁いできた彼女だからこそより新鮮に感じられたのでしょう。それらを多くの人に伝えたいという絵里さんの想いもあり、新たな活動をスタートさせています。

Café 傳之丞 内観(2020)農林水産省

その活動の一つが、この農家の当主が代々襲名してきた名前を取って「Café 傳之丞」と名付けられ、2017年にオープンしたカフェ事業。築70年という古い建物ですが、中に入ればウィリアム・モリスの色鮮やかな壁紙。旬のりんごを使った手作りアップルパイや果物を使ったスイーツ、品種別で味の違いを楽しめるりんごジュースなど、生産農家だからこそ味わえる絶品メニューを求めて、県外からも多くの人が訪れます。

Café 傳之丞 アップルパイと旬のりんごジュール(2020)農林水産省

りんごを使ったオリジナル商品(2020)農林水産省

農地の中に建つ古い土蔵をリノベーションし、1日1組限定の農泊施設「土蔵ファームイン へんぺさんち」で迎えているのも、この農園が続けている伝える活動。ここでは農業体験をしたり薪で焚くお風呂に入ったりしながら、りんごが作られている環境の豊かさを存分に味わうことができます。

山下フルーツ農園の代表、山下絵里さん(2020)農林水産省

りんごの美味しさを体験し作っている環境を知ることが、考えるきっかけのひとつになったら、と絵里さんは語ります。

「普段、みなさん農家にはなかなか行く機会がないですよね。どういう場所でこのりんごが作られているのかを知ってもらえたら、『買う』という行動も少し変わってくるのではないか、食べるものを適切に選ぶことの大切さを感じてもらえるんじゃないか、と思うんです。このカフェは、採れたてのりんごの美味しさ体感してもらいつつ、そういう意識へのきっかけになったらいいなと思って作った場所です。りんごという果物が、自然の大切さや消費活動の気づきを伝えるツールになってくれたらと思っています」

りんごの収穫(2020)農林水産省

りんご(2020)農林水産省

みずみずしく美味しいりんごを口にした感動や、りんごを作っている土地を訪れて感じた心地よさが、食べるものへのちょっとした意識や関心を発芽させ、消費活動を考え直したり行動に移したりすることができたら、これからの日本の農業は変わっていくかもしれません。

提供: ストーリー

協力:
山下フルーツ農園

撮影:上澤 友香
執筆:内海 織加
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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