桜の名所として名高い吉野山の春景を、華やかな色彩と巧みな構成によって表わしたこの色絵葉茶壺は、京焼の大成者として知られる野々村仁清の代表作のひとつに挙げられます。伝存する仁清作の茶壺のなかでも大振りの部類に入り、豊かなふくらみをみせる胴まわりに、金銀をはじめとする豪華絢爛たる彩色で桜花咲き乱れる吉野山の重なりを表わした図柄は、優美でのびやかな表現を見せ、絵画的に最も優れた作品のひとつです。仁清陶は巧みな轆轤技法に特徴があり、この作もその大きさに比較しきわめて薄く成形されていて手取りも驚くほど軽く造られています。仁清の色絵葉茶壺の多くが四国丸亀藩主京極家に関わりをもって制作されたことが判明していますが、この品も近年まで同家に伝来したことが確かめられ、昭和30年に松永耳庵の所有となった作品です。