本作品は病気のため36才の若さで戦後間もなく急逝した松本竣介の最後の展覧会出品作品3点の中の1点です。彼は静謐で洗練された都会的抒情を紡ぎだした画家として知られますが、また「生きている画家」と題する文章によって戦中の軍国主義的風潮に抗した反戦画家でもありました。彼の反戦の真意は、芸術的真実と普遍的な人間性に対する誠実な信頼への真摯な心情表明でした。茶色の背景の中で、薄衣の非現実的な女性が彫像を見つめ触れている画面から、透明で静謐な彼岸的な情趣が強く感じられるのは、本作品を絶筆として見るが故でしょうか。