宮本武蔵は江戸時代前期の剣豪で、二天一流剣法の始祖です。書画にもすぐれた武蔵は、南宋の梁楷の減筆体や海北友松の画風を学び、気迫のこもった水墨画を残しました。この布袋見闘鶏図には、伝・梁楷、海北友松の作品にも同じ図様のものが見られますが、全体的には友松の作品に近いといえます。まさに飛びかからんとしてにらみ合う二羽の鶏を、布袋は悠然と眺めおろしています。この作品の旧蔵者である茶人・松永耳庵は「布袋という絶対者が、争いの絶えない世間を見つめている」と喝破しました。終生戦いの場に身を置いた宮本武蔵が辿りついた境地として見れば、興味は尽きません。