森蘭斎(もりらんさい)(1740~1801)は、越後出身の絵師で、長崎で熊斐のもとで南蘋風の表現を学んだ。熊斐の没後に大坂・江戸に移り、南蘋や熊斐の画業を伝える『蘭斎画譜』を刊行するなど、南蘋派の絵師の中でも広範な人脈をもっていた人物としても注目される。本図は、蘭斎が江戸にいた晩年期の水墨画。やや奔放な皴法(しゅんぽう)・点苔(てんたい)で描かれた背景の岩とは対照的に、対の牡丹の葉や花びら、その上に舞う蝶は、彩色を一切施さず、精鋭な痩肥線と墨色の微妙な階調によって精緻な質感表現が施されている。款記は「北越蘭斎寫」 、白文方印「鳴寉之印」朱文方印「字九江」 を捺す。画面上方の七言絶句は、明石藩の儒者・梁田象水による。