楽焼は、千利休の指導により瓦師・長次郎が京都で作り始めたとされ、桃山時代の茶陶を代表する焼き物のひとつです。本器はいわゆる宗易形(利休好み)の黒楽茶碗で、手捏(てずく)ね成形により、作為(さくい)をおもてに表わさず素直な半筒形としています。やや腰高で口部をわずかに内傾させ、胴の中ほどで心持ち引き締めて成形し、腰から高台にかけては丸みのある造りとするなど、一見シンプルな形のなかに微妙な変化を含んだ味わい深い造型を示すところに、内省的な利休の茶の湯の特色がうかがえるようです。
内箱の蓋表には朱漆で「次ら坊 元伯(花押)」と記され、同蓋裏には仙叟宗室(1622~1697)が、利休から孫の宗旦へ伝えられた楽茶碗であることを記しています。