「我が友ヘスト氏へ、E.ムンクより」。《オースゴールストランの夏》の裏側には、こう書かれている。作品の来歴から、親しい友人だった文学者ジグルト・ヘストに贈られたものであることがわかっている。
オースゴールストランはオスロの南10kmのところにある海辺の小さな町。国土の南端近くに位置し、南の強い光が降り注ぐこの地は、冬が長い北欧の王族や著名人の夏のリゾート地というだけでなく、画家たちにとっても魅力的な制作の場であった。ムンクも1889年以降、毎夏滞在し、多くの作品にその風景を描いている。本作品は、縦横60センチに満たない小さな画面に、ムンクが借りた海辺の家を描いたもので、白い板塀や庭の豊かな緑、奥に広がる海が素早い筆致でとらえられている。冒頭に引用した裏書きから、友人に宛てた夏の便りのような個人的な作品であると考えられるだろう。
オースゴールストランの牧歌的な雰囲気は、生きることの苦悩について描き続け、心を病むこともあったムンクの不安を和らげたのかもしれない。彼は1897年にこの地に家を購入する。そして70歳を迎える頃、前述のヘスト氏に宛てた手紙のなかでこう語っている。「今、私は、人生で唯一の家と呼べる家、オースゴールストランの家にいます。ここは平穏そのもので、私はもう過去からの亡霊たちに怯えることはありません」
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