「どの人種が劣等だとか どの民族が高級だとか… あおりたてるのはほんのわずかなひとにぎりのオエライさんさ…」
第二次世界大戦当時の日本とドイツを舞台に、アドルフという名前をもつ3人の男がたどった運命を描く長編マンガです。
1936年、ベルリンオリンピックの取材でドイツにきていた峠草平は、そこで留学中の弟が殺されていることを知ります。
やがて弟が殺された理由が、彼がアドルフ・ヒットラーの重大な秘密を文書にして日本へ送ったためであることが明らかになってきます。
その文書とは、ヒットラーにユダヤ人の血がまじっているという出生の秘密を明かすものでした。
一方、神戸に住むドイツ総領事館員のヴォルフガング・カウフマンも、本国からの指令を受けて、その文書の行方を追っていました。
そのカウフマンにはアドルフという息子がいました。
カウフマンはアドルフを国粋主義者として育てようとしていましたが、アドルフは、自分と同名のユダヤ人アドルフ・カミルと親友だったため、ユダヤ人を殺してもいいと教えるナチスドイツの考え方には反発を感じていました。
けれども、アドルフ・ヒットラーという独裁者が支配する恐怖の時代に、ふたりのアドルフの運命は大きくねじ曲げられていくのでした。
1983/01/06-1985/05/30 「週刊文春」(文藝春秋社)連載
この作品の掲載誌はマンガ雑誌ではなく、週刊のジャーナリズム雑誌「週刊文春」でした。
さらに、編集長からの「徹底的にシリアスな大河ドラマを」という求めに応じて描かれたということもあって、手塚治虫の青年マンガ作品の中でも、ひときわシリアスでハードな社会派ドラマとなっています。
日本での舞台は、手塚治虫が少年期を過ごした戦前・戦中の神戸を中心に描かれていて、手塚治虫が過ごした当時の神戸の雰囲気がよく描かれているところも注目すべき部分です。
連載中に体調をこわして入院するなどしたために、後半はエピソードが大幅にカットされ、単行本化のときに描き加えられました。