奥村利信(生没年・出生地ともに不詳)は、江戸時代初期の浮世絵師。奥村政信(1686–1764)の門人で、政信の子または弟とも伝えられます。師・政信は、鳥居派や菱川派の画風を独学で学び、初期の浮世絵版画が墨摺絵、丹絵から紅絵・漆絵へと改良されていく時期に活動し、各技法を用いた浮世絵を残しました。鳥居清信の絵本を模写した『娼妓画牒』(1701)が政信の最初期の作品とされ、のちには宮川派や西川祐信の画風を吸収して優雅な美人風俗画を描くようになり、その様式は門人だけでなく、後進の鈴木春信や石川豊信にも影響を与えました。また、歌舞伎小屋内部を遠近法で表現した「浮絵」の先駆者としても知られます。
利信は師・政信の画風を受け継ぎ、1710年代後半から1740年代に活躍した紅絵・漆絵期を代表する絵師のひとりです。政信に比べて、より柔和で色香を帯びた人物表現に特色があります。
本作は、当時「若衆方」として人気を博した初代佐野川市松(1722-1762)の若衆姿を描いたものです。若衆歌舞伎は17世紀中頃までに女性中心の女歌舞伎とともに禁止されていましたが、役柄としては江戸中期頃まで存続したとされます。利信と同時期に役者絵を手がけた鳥居清倍も、ほぼ同じ図柄の役者絵を複数描いており、当時の実際の舞台衣装や姿態を反映していることが推測されます。
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(参考文献)
「最新 歌舞伎大辞典」(監修:富澤慶秀、藤田洋。編集委員:神山彰、丸茂祐佳、児玉竜一 )、東京・柏書房、2012年
「歌舞伎絵に歌舞伎をみる ホノルル美術館所蔵:ジェイムズ・A・ミッチナーコレクション」、麻布美術工芸館、1990年
「狩野派と風俗画」(日本美術全集17)、講談社、1992年