ミュンヘンで修業を積み、カンディンスキーらのグループ〈青騎士〉に参加。線描中心の作風を経て、1914年チュニジア旅行の頃から色彩に開眼、色面で構成された詩的な作風を展開した。21年造形芸術学校〈バウハウス〉の教授となる。33年ナチスに追われてベルンに逃れる。晩年は病に蝕まれたが旺盛に制作を続けた。
ふたつの顔を持つ不思議な生き物が描かれています。片方は子どものようにつぶらな瞳、もう片方はにらむような眼をして、不安げな表情を浮かべています。身体は、糊絵具の質感をいかして描かれた鱗のようなものに包まれています。そして裏面には、真っすぐに前を見つめる自画像らしき顔が描かれました。クレーはカンヴァスや紙の表裏を意図的に使い、謎かけのような「両面作品」を多く残しましたが、本作ではもともと裏面が厚紙の台紙に貼られて隠されていました。後になって誰かが台紙を剥がし、初めて裏面の存在が確認されたと考えられます。この作品を描いた年、クレーはナチスに追われ、ドイツからスイスのベルンに逃れました。どこか儚げな二重肖像と、その裏にあえて隠した顔は、ともに不穏な未来を静かに見つめているかのようです。