『智恵子抄』でも知られる高村光太郎の美術学校卒業制作。獅子吼は説法の激しさをいう語で、イメージは日蓮。
獅子吼とは、百獣を畏れさせるほどの威力で仏法を説くことをいう。作者自身、回想録の中で、「坊さんが経文を捨てて世の中へ出るといふ所」を表現したものであると述べているが、卒業制作写真集には、「高村光太郎作 獅子吼」という題名に添えて「Nichiren Kotaro Takamura」と記されている。光太郎は木彫科の学生であったが、指導教授の高村光雲が父親でもある彼にとって、木彫の技術はとうに慣れ親しんだものであった。石膏像を卒業制作としたことからも、当時美術学校教育に導入されたばかりの塑造の技法が彼の関心をひいていたことがわかる。卒業制作前に恒例であった奈良への研修旅行で仏像に接した感動と、後に詩人としても名を成す作者の中の、文学的な表現への渇望とが、見事に結実した作品である。(執筆者:小野寺玲子 出典:『芸大美術館所蔵名品展』、東京藝術大学大学美術館、1999年)