署名や印章はなく筆者を明らかにしえないものの、図上に賦された高名な五山文筆僧・瑞溪周鳳(ずいけいしゅうほう)(1391~1473)の「八十三翁」の款記から、文明5年(1473)の作と判明する。瑞溪はこの年に示寂しているので、絶筆的な着賛といえよう。
図はうっすらと雪がかかった山茶(椿)の木と、それに止まる一羽の小禽をあらわすもので、瑞溪は山茶に冬を、そして小禽の動きに春の到来を感じ取っている。透明感豊かな節度ある彩色も、新春の清々しいイメージを助長するものといえよう。山茶図の伝統は古く、中国北宋時代には早くも制作されていたことが知られ、わが国でも南北朝時代には既に描かれていたことが文献にみえる。おそらく本図はわが国に舶載された中国院体系の花鳥図を手本にしたと推察されるが、こうした著色花鳥図の作例としては現存最古の部類に属するものである。