1990年代のマレーシア美術界は、若い中国系作家の力強い台頭に直面していた。タン・チンクァンはその代表的存在で、人間性や愛に対するその深い思索を通し、不思議な夜の世界、『青い夜』シリーズを創造していく。これは1987年に第一作目が制作され、当初、平面的な絵画部分だけで構成された。そこでの登場人物はじっとこちらを見つめ、鑑賞者をその世界へ引き込もうとする。しかし、この作品にそうした人物の姿はない。かわりに「青い夜」の世界が現実空間へと飛び出し、赤く伸びたエリアが行く手を指し示す。人間の本性が見え隠れする世界。窓には絶望と狂気のシルエットが映し出され、屋外には仮面をつけた人間と黒い人型がまるでチェスの駒のように直立する。この世界にあっては、唯一素顔を見せる男女にもやはり悲劇が訪れるのだろうか。