アルベルト・フォラステール(1737-1820)の生涯のどこを見渡しても、当代随一の画家の肖像画を手にするような華々しい功績は見当たらない。スペイン東北部出身の軍人は騎兵隊の中でうだつの上がらぬ日々を送っていたが、後の宰相ゴドイ(1767-1851)の知己を得たことで、順調な出世街道を歩むことになる。
ニューヨークのアメリカ・ヒスパニア協会にはゴヤによる同じモデルを描いた膝から上の像が所蔵されている。X線調査により表層の下から浮かび上がったのは、ゴヤとは別の画家の手になるゴドイの肖像画であった。カルロス4世(1788-1808)夫妻の寵臣として、権力をほしいままにしたゴドイは、一方で絵画の収集家であり、2枚の《マハ 》をはじめ20数点に上るゴヤの作品を所有していた。さらには1803-4年にかけて自身の邸宅を飾る寓意画をゴヤに描かせており、フォラステール像の注文の経緯にゴドイが深く関係したことは明白である。
本作とニューヨークの作例の関係について、前者を後者の習作とするか、レプリカとするか意見の一致は見ていない。いずれにせよ、小型の肖像画は、絶頂期の画家の作にしてはやや精彩にかける嫌いがある。それがモデルの個性に起因していたのか、気乗りのしない注文の経緯が影響していたのか、いずれにせよ、ゴヤの筆はあくまでも正直である。