新興の国際都市として躍進著しい1920-30 年代の上海で、おしゃれな舶来品に人々の欲望を駆り立てたのはポスターだった。もともと中国には「年画」と呼ばれる、新年の室内を飾る吉祥図像の木版画があり、これがカレンダー付きの印刷年画となり、大量に流布されるようになる。広告ポスターは、このカレンダー年画の形式を利用し、「近代生活」の幻想をふりまき、大衆のあこがれと欲望をあおった。ポスターのモデルは、当時の銀幕スターたちであり、旗袍(チャイナ・ドレス)は、1925 年頃に上海で流行した最新のファッションである。このポスターは、当時最も人気のあった「穉英(ジイン)画室」で作られたと推測される。その工房には数十名の画工が働き、毎年80 種類ものカレンダー年画を量産したと言われる。大量生産、大量消費の時代を象徴する新たなヒロインの誕生である。