「源氏物語絵巻」は、紫式部が著した『源氏物語』を抒情的な画面の中に描き出した絵巻で、十二世紀前半に白河院・鳥羽院を中心とする宮廷サロンで制作されたと考えられている。当初は『源氏物語』五十四帖を一具として描かれていたとみられるが、現存するのは絵・詞書ともに残る、蓬生・関屋・柏木・横笛・鈴虫・夕霧・御法・竹河・橋姫・早蕨・宿木・東屋の十二帖分十九段(鈴虫・夕霧・御法は五島美術館)、絵が失われ詞書のみ残る絵合のみで、近年確認された若紫の絵の断簡と諸家に分蔵されている詞書の断簡を含めても二十帖分が知られているにすぎない。
墨書きの下図を描き、構図に微妙な修正を加えながら彩色をほどこし、さらに顔の輪郭や目鼻、あるいは衣や調度の文様を描き起こす「作り絵」によって描かれたは、「引目鉤鼻」や「吹抜屋台」の手法とともに、『源氏物語』の世界を展開させている。それは単にスト-リ-のみを図示したのではなく、優美な料紙に流暢な筆致でしたためられた詞書とがあいまって、物語の抒情性や登場人物の心理の動きまでも巧みに描き出している。