昭和7(1932)年12月、当時のフランス前衛美術を一堂に集めた「巴里・東京新興美術同盟展」 を見た三岸好太郎は大きな衝撃を受けた。シュルレアリスムなどの先鋭的なフランス美術 に触れた好太郎は、そこにセザンヌやルノワールに通じるフランス精神が脈打っているこ とを発見する。そして「あのマチエールの美しさは、フランス前衛絵画が如何に前進するとも無くならないであらう事は事実だ」との感想を漏らす。こうしてフォーヴィスムの強 い影響のもと、ルオーばりの厚塗りの絵具で道化師たちを描いていた彼は、翌年から一転 して抽象的な形態を組み合わせた《コンポジション》と題する連作や、厚塗りの絵具に釘 などを使って引っかいた線の面白さを見せるシュルレアリスム的な作品を描き始める。こ の《構図》もそうしてできあがった作品である。
好太郎の作品には、いずれの場合でもあふれる詩情、軽やかなエスプリ、そして淡いユ ーモアが感じられるが、この《構図》でもその特徴はいかんなく発揮されている。彼はこ の後《海と射光》のような日本のシュルレアリスムの最良の作例を生み出すことになるが、 さらなる発展が期待されたその矢先、わずか31歳の若さで急逝した。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、P. 111.)