ルーベンスはフランス国王ルイ13世の母の生涯をテーマとした油彩画の契約のため1622年初頭にパリに赴く。しかしパリから戻るとすぐに新しい仕事である《コンスタンティヌス大帝の生涯》をテーマとした大きなタペストリー連作にも取りかかった。
本作品は、そのシリーズの最初の下絵である。ルーベンスは装飾的な大作に取り組む際には当初のスケッチと仕上げのみを手掛け、ほとんどを助手に任せた。その意味でも本作のような油彩画による下絵はルーベンス芸術の重要な側面を担っているといえよう。
ここには2組の結婚式の模様が描かれている。1組はローマ皇帝コンスタンティヌス1世[大帝]とファウスタ、もう1組はコンスタンティヌスの妹コンスタンティアとローマ皇帝リキニウスである。しかし、実際には、これらの結婚式はそれぞれ307年と313年に行われた。
ルーベンスがこれらの別々の結婚式を同一の場面に描いたのは、1614年の重要な2組の結婚式の意義を古代の英雄の事績と重ね合わせて象徴させるためであった。それはフランス国王ルイ13世とオーストリア王女アンヌ・ドートリッシュの結婚式と、スペイン国王フェリペ4世とフランス王女エリザベトの結婚式である。このように古代の人物と当代(ここでは17世紀)の人物とを取り合わせたりすることは、絵画の表現手法としてよく行われた。
画面には、男女の彫刻を背景に小祭壇が置かれ、古代風の装飾が強調される。画面の中央では2人の子どもがこの神聖な場面に活気を与えている。1人はアウロス(古代ギリシアのオーボエ系のダブルリード楽器)を吹き、1人はたいまつを手に持っている。この子どもたちは、結婚する2組の人物を結ぶ役割を果たしている。左隅には、生贄の牛が見える。
本作のように下絵として描かれた油彩画においては、画家の構想・アイデアが実に巧みに素早い筆さばきで画面に描き留められており、ルーベンスの偉大な素描画家としての才能をつぶさに見ることができる。躍動的で伸びやかな筆致、手早いながらも表情や衣服に光の流れを与えるほんのりとした色調、重ね合わせられた複雑な要素をまとめあげる構成の巧みさ。フランドル最大の巨匠の熟練した技術は、生き生きとした躍動感、感情をも画面に描き出している。
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