なかば顔をつぶされた女性たち。裕福そうな家の庭先で、植民地時代のスペイン風の椅子に腰掛けた彼女たちは、口答えをすることはもとより、互いに会話を交わすことさえも禁じられている。この作品は、すでに植民地時代は過去となったものの、フィリピンの女性たちが貧しい家計を助けるために香港やシンガポール、タイ、日本、中近東などへ出稼ぎに行く問題を扱ったもの。出稼ぎ先では雇い主に虐待されることがあり、この作品も実際に起こった事件に着想を得て描かれた。1990年代における女性の人権について言及するとともに、東南アジア諸国の経済的な力関係のなかで、弱い立場にあるフィリピンの人々が不当な扱いを受ける状況を告発したものである。エルマー・ボルロンガンは、社会の矛盾のなかで重荷を背負って生きる庶民の痛みに関心をよせたフィリピンの画家。