チュニックとスカートとの絶妙なバランスによって、バレンシアガ特有のシンプリシティが最大限に引き出されている。チュニック・スタイルは1955年に発表され、組み合わせたスカートを取れば既に60年代のミニドレスを先駆けている。
一見しただけでは分からないが、本品をより完璧にするテクニックは、ポケットや前身頃に取られた接ぎ線などに隠されている。これらの縫い線は、チェック柄の生地を厳密に合わせることで目に付かない。細部にこそ真の技術が集結するオートクチュールの妙といえるだろう。当時メゾンのアトリエ主任を務めたサルバドールは「ポケット縫いの糸が2、3ミリでもずれていると、無言のまま指を立てて注意を促す。」とバレンシアガの縫製に対する厳格さを回想する。バレンシアガは理想の完成形を目指し、妥協を許さなかった。こうした服に対する厳しいこだわりが、シンプルでありながら風格をもつ作品を生み出した。