昔、鳴沢小屋敷(青森県鰺ヶ沢町)に、一人の腕のよい刀鍛冶が住んでいた。彼には器量のよい娘がいたが、跡とりがいなかった。そこで、七日の間に十腰(十振)の刀を鍛えられる技量を持った者を娘婿とし、跡を継がせようとした。
ある日、鬼神太夫という身なりのよい若者が訪ねてきた。そして、作業中絶対に鍛冶場をのぞかないことを条件に、この難題に挑んだ。ところが、不思議なこ とに何日たっても鍛冶場からは何の音もせず、食事をとっている気配もない。心配になった刀鍛冶は、こっそりと中をのぞいてしまった。するとそこには、おそ ろしい形相をした龍が口から火を吐き、刀を鍛えている姿があった。驚いた刀鍛冶は、娘をこんな化け物にはやれぬと、でき上がった一腰の刀を抜きとり、鳴沢 川に投げ捨ててしまった。
約束の日の朝、何も知らない鬼神太夫は仕上げた刀を差しだした。一腰、二腰・・・と数えていくが、十腰ない。鬼神太夫は落胆し、そのまま東へ姿を消したのであった。
十腰内という地名は、この話が由来になっているという。