1991年、作者はハイナー・ミュラーの戯曲に基づいた舞台の共同制作に取りかかった。それはギリシャ悲劇『メディア』を現代的に再解釈したもので、その舞台背景として制作されたのがこの作品である。画面は向かって左から始まり、西洋の人類学者を案内する現地人、王女メディアと夫イアソンの裏切り、闘う女性、西洋文明による侵食というように、古代の復讐劇が植民地主義の歴史と重ね合わされながら展開する。そして最後の二枚のパネルには、舞台の準備中に起きたムンバイ暴動の凄惨な情景が描き込まれた。女性アーティストの先駆者として1980年代から目覚ましい活躍をみせる作者は、王女メディアを等身大の女性として見つめなおすことで、ジェンダーはもとより、人類史のなかで繰り返される暴力や支配という問題に真っ向から対峙するのである。