風病で瞳のゆらぐ男、小舌の男、霍乱の女など、様々な病気の症例を集めた絵巻。絵は、線の抑揚、肥痩を自在に操って身分、年齢、体格姿勢、病状等を様々に描き出すだけでなく、病人の苦悶する様子、周囲の人々の同情と困惑と嘲りの入り混じった複雑な感情までも表現する。卓越した洞察力をもって病をめぐる人間心理を赤裸々に描き出す、眼病の治療、口臭の女のごとき画面もあれば、痔瘻の男のように、病状に伴う苦しみに標本写真を見るような眼差しを向けた画面もある。
江戸時代末までに1巻15図として伝来したうち、9図が京都国立博物館蔵に帰した。他に、同筆の詞を有する3図、詞を失っているが画風の共通性が強い1図等の計20図が、一連の作と考えられている。
「地獄草紙」、「餓鬼草紙」との共通性が、短い詞と絵からなる段が主である点、詞書の書風、一部の画風、法量に認められ、六道絵を構成したと考えられている。近年、本絵巻は『正法念処経』に基づくが、経文から次第に離れ、説話性を強めていく過渡的形態を示すとの説が提示されている。