1920年代を代表するシンプルな筒形ワンピース・ドレス。このドレスを一際印象付けているのは、上半身の透けるジョーゼットの、半月型アップリケの扱いだろう。当時流行のアールデコ様式をいち早く反映している。1925年、「現代装飾工業美術国際展覧会(アール・デコ展)」がパリで開催されると、その影響は広く装飾芸術に、そして黄金期を迎えつつあったオート・クチュールにも波及していった。1920年以降年を追って短くなっていたスカート丈は、1926年のこのドレスでは既に膝丈にまで上がっている。ドレス脇に縫い留められたサッシュで上身頃をブラウジングさせると、ヘムラインやスカートの切り替え線が直線になる。
ガブリエル・シャネルは、第1次世界大戦前から活動を始めていたが、戦後の活動的な新しい女性像が求められ、女性服が現代へと大きく舵を切ったとき、そのリーダーとしてパリ・オートクチュール界に名声を確立した。彼女は旧来のような過剰な装飾を排除し、そぎ落とす贅沢さとでも言う、本品にも見えるようなモダンな装飾を追及した。何よりも機能的で着心地がよい服で定評を得た。本品は、当時のモデルでありファッション・リーダーであった、フランスのPrincesse de Facigny-Lucinge[1902-45]の旧蔵品。