スカート部の4本のフープは、ウエストラインと水平ではなく、斜めに入れることによって、スカートが真円ではなく歪に膨らむ。身体にフィットしたトップと立体的に誇張されたスカート、そして肩から袖部に使用された円形パーツによる構成の本品は、ミニマルながら、豊かな造形美を見せている。
山本の1990年秋冬コレクションは、「最大のテーマは、オートクチュールとは何ですか、既製服とは何ですか」(毎日新聞 1990年5月30日付けインタビュー記事)だった。彼は「既製服は生活者が着てくれて初めて完成する、現実的な価値が大事」と言い、「オートクチュールは服だけで完成している部分が8割以上あって、人がその中に入る必要がない。それなら三角や四角を付けても服ですよね、と逆説的な疑問を投げかけようと思った」のである。当時のファッションが高級化への道を辿っていることに異を唱えたこのシーズンのコレクションの後半を占めたのは、本品のように円形等の裁断されたパーツを重ねたり、折ったりした作品だった。本品は、服作りの頂点であるオートクチュールに対してとりわけ深い尊敬と憧憬を持つ山本ならではのアイロニーを込めた、彼らしい現代の服となっている。