明治元年群馬県の安中市に生まれた湯浅一郎は、その60余年の生涯を明治大正の日本洋画の歴史とともに生きた。窓辺に腰掛ける若い女性を描いたこの作品は、障子と敷居によって垂直線と水平線が強調された構図に黒田清輝の《舞妓》の影響が指摘できる。しかし、本作が醸し出すロマンチックな雰囲気は、雑誌『明星』を中心に興っていた明治の後期浪漫主義と同質のものだろう。黒田率いる白馬会の第9回展覧会に出品しているが、同展には青木繁の《海の幸》や藤島武二の《蝶》などの名作が並んで、美術ファンの話題を集めていた。いかにも明治を思わせる作品である。