20世紀初頭、夜の盛装にはフル・レングスの華やかなイヴニング・コートが着用された。ウエストを極端に細くするS字型シルエットからコルセットを排し筒型のシルエットへと移行するこの時期、本品のようなコートは、ドレープやギャザーを用いて肩を支点とし縦に流れるシルエットを作り出すアイテムとして流行した。パキャンは1907年に着物の裁断方法を取り入れた「マントー・ジャポネ」を製作しており、この時期に日本、中国といった東洋のイメージを持つ作品が多くみられる。本品は柄に古典的な西洋の花柄を用いつつ、形は袖や裾にゆとりをもたせるなど、着物の影響がうかがえる。
デザイナーのジャンヌ・パキャン[1869-1936]はルフ店で修業後、1891年にパキャンの名でメゾンをパリに開店。豪華でロマンティック、綿密な仕立てとドレープが融合した作品は、20世紀初頭の社交界の女性や女優たちに高く評価され、当時を代表するメゾンの一つに数えられた。1900年パリ万博の服飾部門総監督をつとめるなど、デザイン以外のプロデュース面での才能も開花させた。また、いち早くロンドンなど世界各地に支店を開設し、ランジェリーや大規模な毛皮部門でも有名だった。20年引退。メゾンはその後も続いたが56年に閉店した。