オートクチュールの大御所バレンシアガのもとで働いていたクレージュ(1923-)は、1961年に自らのメゾンを開いた。彼がデザイナーとしての名声を確立するのは、1965年オートクチュールのコレクションで発表したミニスカートによる。20世紀の女性服の定番のひとつとなっているこのスタイルは、当時ファッション業界が無視できなくなりつつあった若い世代に受け入れられた。シンプルで機能性を重視した彼のスタイルは、サンローランやカルダンらと共に60年代の流行を確立、牽引していく。ミニのドレスが流行した後、60年代後半になるとマキシ丈のドレスやフレアーボトムのパンツが着用されるようになった。このイブニング・ドレスは丈の長さ等から70年頃の作品と考えられる。クレージュが好んで用いた白い厚手のウールを用いた簡素な形状のドレスは、気品さえ漂わせる彼の典型的なスタイルを示している。背中が大きく開いているが、これは伝統的な夜会服にみられるような「女らしさ」を強調するものというよりも、着用者の若々しい身体を前面に押し出す仕掛けであると言えるだろう。