淡い色調と繊細な装飾が特徴的なドレス。スカート部分は三枚重ねで、オーバースカートの前明き部分から、絹サテンのリボンや花、接ぎ合せたチュールやレースの夥しい装飾が見え隠れする。
第一次大戦により、ファッションは急速に簡潔な方向へと向かう。一方、これまでの手の込んだ装飾的、伝統的なスタイルに愛着を持つ女性たちも多く、ランヴァン店とともに、ルシール店はそうした顧客たちの支持を得た。このドレスも懐古的な女性らしさを漂わせているが、足首の見える短めの丈には新しい時代感が示されている。
デザイナーはルーシー・クリスティーナ・ウォレス、後のレディ・ダフ・ゴードン[1863-1935]。1894年、ロンドンに「ルシール」を開店。18世紀の宮廷衣装を彷彿とさせるような色彩と繊細な装飾、贅沢な生地使いで当時の社交界の女性を魅了した。顧客にはウォリック伯爵夫人やアイリーン・キャッスル夫人など名立たる女性が名を連ねた。1910年にニューヨークとパリ、1915年にシカゴに支店を出店。第一次世界大戦中はアメリカでのビジネスが拡大し、「ルシール」の名声が広がった。本品はニューヨーク支店製。