ほっそりとした上身頃とは対照的な、大きく広がった黒いチュールを2重に重ねたボリュームのあるスカートが目を惹くドレス。スカートは円形に裁った布の中央にウエストの部分の穴を開けたサーキュラー・スカートである。ぶどうのモティーフのアップリケが施され、その裾にホース・ヘアー・バンドが縫いつけられ、このバンドの重さにより波のようなフレアーラインをつくっている。上身頃は黒いチュールが首元までを覆い、背中は露出するという、「自然な」身体のラインがそのまま服のシルエットと一体化した構造。円形に裁ったチュール地のボリュームと軽やかさを最大限活かしつつ、着る人の身体のラインもあわせて強調したこのドレスは、ヴィオネの服作りの独自性、独創性をよく伝える一点である。
パリに生まれたマドレーヌ・ヴィオネ(1876-1975)は、お針子の修行を積み、キャロ、ドゥセという一流店を経て1912年に独立した。布地をバイアスに用いるなど、生地のテクスチャーを引き出す裁断法と縫製の良さで、斬新なスタイルを次々と生み出した。それらはいずれも、きわめて洗練された簡潔さを特徴とし、現在も多くのデザイナーに影響を与え続けている。20世紀の最も創造的なデザイナーの1人である。