ジョン・スローンは、近代都市における民衆生活の情景を描いた画家として知られてい る。新聞の挿絵画家として出発したスローンは、アカデミックなアメリカ画壇から「下品」 と攻撃されながら、急激に発展する大都市ニューヨークの光と影を描いた。小さなアパー トでの生活、高架鉄道で通勤する労働者、都会に遊ぶ子どもたち、そして夜の繁華街の風俗まで それまで見向きもされなかったアメリカの現実を絵画の主題として、次代の「ア メリカン・シーン」の画家たちへの扉を開いたのである。
《ヴィレッジ監獄の解体》は、高架鉄道の駅の階段から見た解体現場を描いている。5番街がはじまるマンハッタンの南、ワシントン・スクエアの付近一帯は、グリニッジ・ヴィレッ ジと呼ばれ、1920年頃より、若い芸術家たちが住み着いて、自由きままな雰囲気を漂わせ た街として知られていた。ブルドーザーが整地している工事現場で、焚き火にあたる労働 者の姿と対照的に、着飾った紳士淑女が談笑しながら階段を降りていく。世界恐慌前夜、 新しい近代的な拘置所に建て直すために取り壊される古い監獄の光景から、変貌しつつあるグリニッジ・ヴィレッジの現実が見えてくる。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、P. 73.)