電飾らしきもので覆われた汽船、帆掛け舟、洋風の建物、赤提灯、観葉植物、そして花火。静けさと華やかさが同居した不思議で夢のような世界が一枚の絵に凝縮されている。
古賀春江は、竹久夢二にはじまりセザンヌ、ピカソ、ローランサンあるいは未来派絵画など、同時代の美術に影響を受け、それらを着実に自分の養分として取り入れ、制作へとつなげた画家で、この《煙火》では、パウル・クレーへの心酔ぶりが多分にうかがえる。さらに、当時の社会風俗、最先端の科学(機械)、思想などにも関心が向けられモチーフに生かされているが、古賀の豊かな感性によって構成された画面は今も斬新さを保ち続けている。
この作品は、第14回二科展(1927年)に出品された『煙火』(川端康成記念会蔵)との連作と考えられ、画面寸法および幻想的・童画的な構成、それに船や格子状の模様などの題材に共通点が認められる。