文字通り百種に近い四季の草花が、金箔を押した檀紙に直接岩絵具で色彩も鮮やかに描かれている。近世初頭の伊年印のある四季草花図を思わせるが、より写実的で植物の種類も多いことから、江戸時代中期以降の博物図譜との関連も窺われる。本図は、訥言独自の的確な筆致と優美な色彩、細かな皺が寄せられた檀紙が醸し出す深みのある金色とがあいまって清新な気品に満ちており、訥言畢生の名作と評されている。(名品2005) 訥言(とつげん・一七六七-一八二三)は江戸後期、名古屋の画家。初め土佐派の絵を学んだが、大和絵の古典を研究して復興を志した。浮田一惠や渡辺清が後を継ぎ、復古大和絵派と呼ばれた。 金箔を置いた檀紙の料紙に、直接岩絵具で、九十余種にも及ぶ四季の草花が、色彩も鮮やかに描かれている。的確な筆致と鮮やかな彩色とにより、円山応挙の写生法や琳派の酒井抱一の装飾性とはまた異なった、一種の写実装飾画を完成させ、力強さと斬新さを誇示している。