キリスト教の聖書をのせる折りたたみ式の見台。イエズス会の紋章をあしらっている。IHS紋の蒔絵の見台はいくつか知られ、紋の回りの文様が異なる。本品は、螺鈿(らでん)と泥絵(でいえ)のような細かな金粉の平蒔絵(ひらまきえ)で、市松文の縁取りのなかに籠目を作り、輪違い状の装飾や花のような文様を足した幾何学文である。受け台の裏には絵梨地(えなしじ)もまじえて橘を描き、背面は「南蛮唐草」で縁取ったなかに背板では蔦唐草、脚部では朝顔をすきまなく描いている。一枚板から蝶番(ちょうつがい)を彫り出す構造は日本の木工の伝統には見られず、イスラム圏のコーランの見台の構造を模したものとされる。同じ形、同じ構造をしながらインドの銀細工で覆われた見台が存在することから、本品は、コーランの見台を目にした人々が日本に来て蒔絵や螺鈿の品の制作を指示したものと考えられる。大航海時代のアジアの海の交流史を如実に伝える品である。