画面中央で銃を構える男は、1975年公開のインド映画史上最大のヒット作『ショーレー(邦題:炎)』に登場する悪役ガッバルである。豪華スターが競演したこの映画は、若く勇気ある流れ者二人とガッバル率いる盗賊団との迫力ある対決場面や愉しい歌と踊りなどによって、インドの人々の心をとらえた映画である。ガッバルの周囲には、この映画の激しい暴力シーンや死を暗示するイメージが描かれ、それに向かって手を合わせる子どもたちは、映画とは対照的な無垢な祈りを表わすとも、暴力的な映画を無批判に礼賛する大衆の姿を象徴しているとも読める。このように、アトゥル・ドディヤは、映画や広告などの大衆的・日常的なイメージを多様に組み合わせることによって、インド社会の問題を鋭く浮かび上がらせる。『ガンボージ色(濃いからし色)のガッバル』は、大都市ムンバイに掲げられた映画看板のように、強烈な色彩で見る者を圧倒する。