おさげ髪の少女

黒く美しい髪に、彫りの深い端正な顔立ち。美を追い求め、成功を夢見ながら報われず、 アルコールと麻薬におぼれる破滅的な生活。そして彼の死の2日後、自ら命を絶った恋人 ジャンヌ・エビュテルヌなど、モディリアーニの生涯は、我々が芸術家に対して抱く堕落 したイメージに事欠かない。しかし、そのような破滅的な生涯とは裏腹に、彼の残した作 品は祈りにも似た静けさに満ちている。
《おさげ髪の少女》は画家がこの世を去る1年ほど前、おそらく第1次世界大戦で混乱す るパリを離れて南仏滞在中に描いた作品と考えられる。この間恋人ジャンヌとの間に娘が 生まれ、モディリアーニは父となっていた。その喜びもあったのだろう、この時期彼は数 多くの子どもたちを描いたが、中でもこの作品は代表作のひとつに数えられている。イタ リアの伝統を誇りとし、いつもなら造型性を優先させるこの画家が、ここでは素直な情感 の表出に身を任せている。何かを問いかけるでもなく、訴えるでもなく、ただ無心に我々 をじっと見つめるこの少女の澄んだひとみの奥からは、報われぬ人生を送るがゆえに一層 優しさと愛を求めずにはいられない画家の心情が、静かに伝わってくる。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、p. 17.）