大正から昭和初期にかけての名古屋地方で、美人画を得意とした代表的画家が渡辺幾春である。幾春は一貫して女性の美しさを追求し、近世初期風俗画や浮世絵、同時代の美人画作品までを参考にして独自の画を確立しようと努力しづけた。
《蓄音機》は第14回帝展に出品された作品で、京都から名古屋へ帰った幾春がみずからの画風を確立し、洗練の度合いを加えつつあった時期の代表作である。大正の作風にくらべて線や色彩も整理されたクールな装飾性とでもいうべき画風になっているのは、この時期の日本画によく見られたいわゆる「新古典主義」的な作風の影響を受けているのであろう。さわやかななかにも艶やかさを感じさせる作品である。
着物姿の女性、手回し蓄音機、レコードとも斜め上から見下ろした視点で描かれている。 角度が違ったり、不自然な遠近を感じさせるのは、日本画の伝統に基づいているためである。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、p. 83.)