東京美術学校日本画科選科で学ぶ。伝統絵画の研究や浮世絵の影響につちかわれた繊細な美意識を発揮し、本の装丁、新聞や雑誌の挿絵、歌舞伎や新派の舞台美術など幅広い分野で人気を博した。いずれの仕事も、近代的に洗練させた江戸情緒と、大胆で機知に富むデザイン性をあわせもったモダンな感覚にあふれている。
柳がもっとも美しい春の、日本橋界隈のひとときをとらえた作品。15歳から日本橋檜物町に住み、この地で泉鏡花をはじめとする文化人と交わった雪岱にとって、その雰囲気はたいへん近しいものだったのでしょう。高いところから見下ろした奥行きのある構図で、家屋の隅々までを的確な線でとらえています。ここに主人公の姿はありません。しかし、三味線や鼓などのモチーフを細やかに配することで、人がいたことを暗示するような時間の流れを感じさせる心憎い演出がなされています。まるで進行中の舞台をのぞきこんでいるような独特の緊張感は、舞台美術の仕事にすぐれていた雪岱ならではの感性のあらわれといえます。もとは四季を描いたうちの一点なのか、他にも秋と冬の情景を描いた肉筆画があり、それぞれに複製版画が発行されています。