一般的に「幸せな大家族」「子だくさんの幸せ」というタイトルで知られているこの楕円形の絵は、同じ絵柄のヴァージョンが本作の他に4点(ワシントン・ナショナルギャラリー所蔵ほか)知られており、当時人気を集めた主題である。
画面の中央に白いブラウス、赤いスカートの若い母親が幼子を抱いて坐り、その周りで年長の子どもたちが遊ぶ。左手の窓の外では父親がロバと一緒に家の中をのぞいている。母親の背後には、召使いの女とその子であろうか、シルエットのように寄り添って描かれている。家畜の犬とロバもまるで家族のようで、人物は自由なポーズと視線をとりながら、親しげな感じで互いに深く結びついている様子が見て取れる。しかし、部屋の上方をみると、古代イタリアの廃墟のようであり、この家族の団欒とはおよそ不釣り合いな、古くて大きな石造りの空間である。右手の台(羊の頭と花絆を象った飾りが施されているので古い祭壇であろうか。とすれば、この建物は神殿である)の上には玉葱と肉の塊が置かれ、金属製の深鍋のような容器も見える。
質素な生活だが子宝に恵まれて幸せな家族───。幻想的な建築物を背景に描かれた若い両親と子どもたち───。この絵には、さらに目には見えないいくつかの事実が隠されている。ひとつは、この家族像は18世紀フランスで活躍した思想家ルソーの「家庭は社会の基本であり、家族愛は道徳の根本」という思想を絵に描いた「理想の家族像」であるということ。もうひとつは、フラゴナール自身が幸福な家庭生活に恵まれ、当時流行した官能的なロココ風の絵のみならず、こうした素朴な絵にも才能を発揮することができたこと。そして更にもうひとつ、この絵は、「聖母子像」「聖家族」「羊飼いの礼拝」といった伝統的なキリスト教絵画のテーマを、当時の人物、当世風の主題にリメイクした作品である、ということである。これはフラゴナールが単に風俗画家なのではなく、宗教画家としても優れた知識と技術を持っていたことの証明でもある。赤と青の着衣に身を包み、幼子を抱く若い女性像は、伝統的に聖母マリアと幼児キリストを表わすもので、「絵画の伝統を継承しつつ、自由で新しい18世紀の精神をも体現する」フラゴナールらしい作品といえよう。
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