俗に「ジュエルド・ヒール」と呼ばれるアール・デコ期のヒール。靴を注文銚えする際のサンプルである。18世紀末から靴に応用されたエナメル加工、1909年に実用化されたベークライト等の樹脂加工で、艶やかな光沢を出している。その上に精緻な手仕事でラインストーンやメタル・ビーズが施され、幾何学的なデザインを見せている。
当時パリでは「ボーティエ(注文靴専門の職人)」がクチュリエたちと贅沢な靴を生み出し、アンドレ・ペルージアなど、靴のデザインにもその名を記すデザイナーが現れた。また1920年代は、西欧の女性が歴史上初めて膝下を露出し、靴の存在はそれまでに比べて重視されることになる。靴は機能性と共に小さな彫刻として歴史上さまざまな造型が登場した。その中で、アール・デコのデザインが反映されたこの時代の靴は、一種のオブジェとも言える特別な魅力を放っている。