江戸時代 17世紀
出雲阿国の「歌舞伎踊り」は、当時、異様な風姿で巷を横行する無頼の徒「かぶき者」に扮した異風の芸態で人気を博した。阿国の成功により、歌舞伎踊りはすぐさま模倣され、多くの追随者が生まれた。本巻の主人公「采女」もその一人である。
本図は采女の活躍の次第を記した「采女序」にはじまり、五種の踊歌の詞と踊りの図、最後に采女が男装して踊る「茶屋遊び」の図で構成され、芸態や三味線のない囃子など初期女歌舞伎の様相をよく伝えている。彩色の鮮やかさもさることながら、人々の衣服の模様や輪郭線にも金泥線が用いられ、さらに天地には絵を縁取るかのように、金銀の砂子や切箔・野毛を濃密に撒いた雲形が置かれている。また詞書の料紙には、水平にたなびく霞状に金銀の砂子や野毛が撒かれた茶と浅葱の染紙が色替わりに用いられて絢爛豪華である。