「源氏物語絵巻」は、紫式部が著した『源氏物語』を抒情的な画面の中に描き出した絵巻で、十二世紀前半に白河院・鳥羽院を中心とする宮廷サロンで制作されたと考えられている。当初は『源氏物語』五十四帖を一具として描かれていたとみられるが、現存するのは絵・詞書ともに残る、蓬生・関屋・柏木・横笛・鈴虫・夕霧・御法・竹河・橋姫・早蕨・宿木・東屋の十二帖分十九段(鈴虫・夕霧・御法は五島美術館)、絵が失われ詞書のみ残る絵合のみで、近年確認された若紫の絵の断簡と諸家に分蔵されている詞書の断簡を含めても二十帖分が知られているにすぎない。
本絵巻の詞書に用いられた料紙装飾の特徴は、各紙ともに紫や蘇芳などの淡い暈かし染を施し、金銀の砂子や大小の切箔、裂箔、野毛を撒き分けている点にある。永治元年(一一四一)に営まれた『久能寺経』に近い装飾手法を示しており、本絵巻の成立年代も、これと相前後する頃とみなされる。