「仮名手本忠臣蔵」の七段目が演じられている芝居小屋の内景。透視図法を強調した浮世絵である浮絵(うきえ)の様式で作画された上質の劇場図のひとつで、遊興する大星由良之助をはじめとする役者への関心より、むしろ透視図法の奥行き効果や、全く舞台に関心を示していない観客の無秩序な様子を諧謔味たっぷりに描くことを絵師はねらっている。障子に映った人影のシルエットの表現は、影絵を使った当時の演出を推定させる画証資料。
本図は寛延2年(1749)5月の芝居を描いていると推定される。右前景にこの「絵画」の中から「出てこよう」とする観客が描かれ、平面を奥深い三次元空間として再現させる効果を強調している。日本の風俗画に西洋的空間が生まれ出た新鮮な息吹を伝える作例。鳥居清忠は、初期浮絵(うきえ)の中心的絵師である。