経文の一字一字が彩色を施された蓮台の上に奉安されている、いわゆる「一字蓮台法華経」の遺品である。銀界が引かれた料紙に書写されている経文は、やわらかみを帯びながらも一点一画をゆるがせにしない端正な楷書である。
如来神力品第二十一の蓮弁は、各行のはじめより群青、丹、緑青、銀泥の順にくり返して彩色されており、横へと展開するパターンである。ただし、銀泥は一行ごと交互に白描と銀泥となっている。残念ながら、末尾の偈頌十六偈(げじゅじゅうろくげ)を欠いている。
嘱累品第二十二の蓮弁は、丹、緑青、群青、金泥、銀泥で彩色されており、その彩色の織りなすパターンは、如来神力品よりも複雑になっている。丹を中心点とした菱形文様の間を緑青の菱形文様で埋め、更にその間を菱形文様を基調にした群青、金泥、銀泥で彩色するというものである。
まさにこの遺品は、経文の一字一字を如来の分身と捉え、経文を「仏語」そのものとして真摯に受け止めた作品と位置づけられる。