古九谷の絵付けを思わせる力強く野趣を含んだ文様を胴まわりにあらわした沈香壺で、初期の柿右衛門様式のなかでも特に類例が少なくきわだった作風を示す優品です。濃厚にして鮮麗な釉調は、力強い筆致で描かれた図柄を一段と輝かしいものにしています。赤線による区画の取り方は、17世紀後期に盛行するこの手の柿右衛門壺と同じですが、古格を示す絵付けとあいまって、裾を竹節状につくらず、また乳白手の素地には一部に貫入があらわれるなど、それらに先行する寛文年間(1661~1672)ころの作品と推測されます。高さ25センチほどの小振りな壺ですが、大きさを感じさせる迫力に富んだ名品です。近年ヨーロッパから里帰りした品です。