ラッキョウ形の胴に小さな碗をのせ、鳳凰の頭部をかたどった注口と龍の姿をした把手を付けた器形は、一度みたら忘れられない風変わりさとユーモラスな個性味にあふれています。タイ中部のシーサッチャナライ窯で焼かれたこの器は、斬新な意匠といい巧緻な技法といい、この種の技法の製品としては群を抜いた出来栄えを示しています。胴の両面には紐状突起で縁取った区画内に、唐草文と人面蛇身の像を表わしており、民間説話か何かのような背景を感じさせます。各部の細工や構成は実に巧みで緊張感に富み、しかもまったく損傷のない完器であるところも大変貴重です。タイの焼物を代表する名品であるといってさしつかえありません。かつてシーサッチャナライ製品が貿易陶磁として大量に輸出されたインドネシアのスラウェシ島から近年もたらされた品です。