『浄名玄論』8巻は、中国・隋時代に三論宗の教学を大成した嘉祥大師吉蔵(かしょうだいしきちぞう)(549~623)が著した『維摩経(ゆいまきょう)』の綱要書である。
この写本は、巻第四と巻第六に慶雲3年(706)12月の奥書を有しており、紀年を用いて書写年代を明らかにしたわが国最古の写本であり、仏典である。古写経史上稀覯の遺品であるが、ただ8巻のうち、巻第一は平安時代、巻第二と第五は鎌倉時代の補写本であり、巻第七と巻第八を除く他の3巻も巻首が補写されている。
このような経疏章(きょうしょしょう)(主に中国において著された注釈書や撰述書の類)は、1行17字詰めという規格や書体にこだわらずに自由な筆致で書写されることが多い。料紙には楮紙が用いられ、六朝風の趣を湛えた書体は書道史上でも貴重なものである。
また各巻には白点をはじめとした訓点があり、国語学上からも重要な資料となっている。