濃茶の地色を背景に、右袖から枝を伸ばし、両肩を覆うように天に向かって大きく開く花と、腰から裾へと、やや控えめに開く花。ふたつの花は、背面に大きく平仮名の「て」を描くかのように配されている。この大胆な意匠構成は、江戸時代寛文年間(1661~73)頃に流行した「寛文小袖」の特徴であり、この一領はその代表作とされている。
一見すると菊にしか見えない文様だが、実は中心に菊花を置き、その周囲を棕櫚の葉で囲んだ、菊と棕櫚の合成文様である。そのことは、寛文7年(1667)に刊行され、寛文小袖という名称を生み出す源となった小袖雛形本『御ひいなかた』に、この帷子と近似する意匠が「きくにしゆろ」という注記とともに掲載されていることから明らかにできる。
当世流行の小袖意匠を集めた雛形本は、現代のファッション雑誌のように女性の心を捉え、類似作が生み出されたことだろうが、現存する作品と雛形本の意匠図が一致する例は極めて少ない。